キミの風を感じて

「あの女って?」


「立木だよ。7走の立木紗百。誰か探してチェンジしとけっつったろ?」


何事も命令形。



「いねーよ。お前が吠えたから」


「いや、いなくったってあれはない。運動神経ゼロだぞ、あの女」


最後のほうは声をひそめて、やつは言った。



「聞いた話だと、あいつ去年の体育祭の障害物走でネットに絡まって出らんなくなったらしいんだ」


重大な秘密を明かすように鈴木が言う。


……いや、知ってるから。




「あれは髪が引っかかっただけで、ただのアクシデントだよ」


「いやいやいやいや、何があろーがそんなことになるか? 考えてみろ、今までの人生の中で障害物走のネットに絡まった人間、他に見たことあるかよ?」


「……あるよ」


「うそつけっ」



鈴木が鼻の穴を膨らませた。


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