キミの風を感じて
よくわからないままうなずくわたしを、高梨くんはいきなり胸に抱きしめた。
え……!?
「いつも一生懸命な紗百が可愛くて好きだった」
「…………」
「がんばれよ」
「……うん」
「いつかお前の世界もちゃんと見つけられるから」
「うん」
それだけ言うと彼は少し体を離し、わたしの頭に大きな手をポコンとのっけた。
いたずらな瞳がのぞき込む。
「もしもプリンスがわからずやだったら、俺に乗りかえろ」
内緒話みたいに耳元でそうささやくと、高梨くんはバンドのみんなのところへと戻って行った。
振り向かずに行った長身の背中を見送りながら、なんだか涙が出そうになっていた。
好きになってくれてありがとう。
優しくしてくれてありがとう。
ゴメンね、高梨くん。
高梨くんをフるなんて、きっとわたし10年早いよ。
こぼれたひと粒を指でぬぐったとき、ふと人の気配を感じて後ろを振り返った。