キミの風を感じて
「あいつのほうがいいの?」
降ってきた言葉にハッと顔をあげて、首をブンブン横に振る。
「だったら、抱きしめられたりすんなよっ」
静かにくすぶっていた炎が燃えあがるように、加島くんが大声をあげた。
「だ……って」
もうダメ。
両目から涙が音もなくあふれ出してきて、声をあげないように両手で口を押さえるのが精一杯。
今日のことあんなに楽しみにしていたのに、加島くんの怒った顔が悲しかった。
「こーゆーことだよな」
長い沈黙のあと、加島くんがひとり言みたいにつぶやいた。
「何……が?」
喉がまだしゃくりあげている。
「合宿で一緒だった強豪校のやつらは、男女交際禁止が当たり前なんだって。
恋愛すると振り回されてペース乱されて、陸上に専念できなくなるからって」