キミの風を感じて








「……ゴメン。ムリだ、俺」



ユメちゃんの腕の中で固まっていると、しばらくして、ボソッと一言だけそう聞こえた。


加島くんが帰っていくのが気配でわかる。


せまい通路をそのまま行くと、地上にでる階段へとつながっている。




だけど――


ユメちゃんの腕の中から飛び出して、加島くんに追いすがり、今の言葉の意味を質す勇気は、もうわたしには残っていなかった。




「今夜はイヤなこと忘れて、パァッと騒ごっ!」


ユメちゃんはそう誘ってくれたけど、もうそういう気分では全然なくて、


お祝いムードのみんなにも悪いし、わたしはひとりライブハウスをあとにした。








< 294 / 375 >

この作品をシェア

pagetop