キミの風を感じて
数時間前――。
どこかの大雨で新幹線が遅れ、そのライブハウスに着いたのはもう終演間近だった。
ここいらでは一番の都会となるこの繁華街の裏通り。地下のホールへと通じる階段を駆け下りながら、俺は額の汗をぬぐった。
駅から走ったのは、坂田たちのバンドのライブを見たいからでは全然なくて、
『初デートだね』って笑ったあの子のもとに早く行ってやりたかったからだ。
すいぶん遅れたからもう怒っちゃってるかもしれない。
充電がヤバかったけど、途中で送ったメールはちゃんと届いただろうか。
立木さんが取ってくれたチケットを渡して中へ入る。
ドアを開けると、そこは別世界だった。
グワンと音が鳴り響き、色とりどりの光が跳ねる。
それよりも何よりも熱気がヤバい。
「スゲーな、これ」
正直ライブハウスなんてのは初めてだった。
立ち見なんだけど、ノリノリの観客たちが前へ前へと押し寄せるから、後ろの方は案外スカスカだ。
入口で妙に馴れ馴れしい店員に『荷物じゃまならコインロッカーあるから~』って言われたけど、まぁいいか。