キミの風を感じて

それから高梨は彼女を間近で見つめ、耳元に何かささやきかけると、優しく微笑んで去って行った。


それを目で追うように彼女の体が横を向く。


立木さんはこぼれた涙を人差し指でそっとぬぐって、あいつの背中をずっと見つめていたんだ。




それは――


高梨に想いを打ち明けられて、感激の涙をこぼしている姿にしか見えなかった。




俺には、そうとしか見えなかった。




あれが愛の告白でないならば、
なんであんなふうに抱きしめる?


答えがOKでないならば、
なんで素直に抱きしめられてる?




だからそのあと聞いた彼女の言い訳は、全部ウソにしか聞こえなかった。




逆上した俺には、


どうしても


そうとしか思えなかったんだ――。


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