キミの風を感じて
そうしてそのまま立ち去るのかと思いきや、やつはまだその場を動かない。
「あのさぁ……」
高梨が、ハーとひとつ、息をついた。
「あれはわざとだ、加島」
やつの茶色っぽい目がまた俺の目の中をのぞき込む。
「え?」
「あの晩、ライブハウスの通路の奥で紗百を抱きしめたのは、お前が来たのが見えたからだよ」
「は?」
「ちょっとお前を揺さぶってやろうとか、とっさに思っちゃったわけ」
「なん……だ、それ?」
「お前が動揺して暴言を吐くか、自滅しちまえばいーなーって思ったんだよ」
高梨の言葉を脳みそがじんわりと理解していく。
「……てめー、何言ってんだよ」
「おかげさまで、こーんなうまく行っちまって、後味わりーから自白しとくわ」
同情するような笑みすら浮かべ、そう言い残すと高梨は去って行った。