キミの風を感じて
「加島くん、教室に戻らないの?」
教室なら下だ。
「俺、顧問の先生に話があるから」
「そっか……」
「うん……」
お互いに次の言葉を探している。
さっきの声の主たちが階下から姿を現し、怪訝そうな目をこっちに向けた。
急ぎ足の女子たちはヒソヒソと、たぶん加島くんのことをささやきあいながら、真横をのぼっていく。
「じゃ、な」
そう言い残して、彼も階段をのぼりだした。
わたしは下におりて廊下を行く。
授業中の廊下はやけに静かで明るかった。
『俺……』
加島くんが言いかけた言葉の続きは、何だったんだろう……?
結局わたしは彼の誤解を解くことすらできなかった。
さっきのは神様が奇跡的にくれたたった1度のチャンスだったかもしれないのに……。
教室に戻るともう授業が始まっていて、わたしは先生に一礼してから席に着いた。