キミの風を感じて
「いや、先生に聞かれるのやだし、先に先生のほうをサッと済ませますんで」
なのに加島くんは、かなり失礼なことをとても冷静に言った。
「はいはい」
肩をすくめた先生に体ごと向き直り、加島くんが話を始める。
身の置き場がなくてキョロキョロしてたら、「一緒に聞いてて」と彼が低くささやいた。
さっきつかまれた手首はまだ赤くなっていて、彼がとっさに力加減なく引きとめてくれたことがわかる。
「陸部に新しいコーチが来るって本当ですか? その先生が顧問になるって、みんな騒いでます」
「おー、来るぞ。陸上指導に関してはプロだ」
吉崎先生はうれしそうに答える。
「陸部の連中は誰もそんなの求めていません。吉崎先生を信頼してるし、顧問を続けてもらいたいと願っています。
もしその新しい先生が俺のために赴任してくるんだとしたら……、
俺は、自分が転校してその話をつぶしてしまおうと思っていました」
加島くん……。