キミの風を感じて
「いい? ここから向こうの大きな木の手前までが、直線で100mだ」
ゴール地点で不思議そうに立っている紗百に説明をする。
「ふ~ん。何が始まるの?」
「俺が向こうから走ってくるから、ここで待ってて」
「え、なんで?」
「えっと……今日は君だけを見て走るよ。俺の景色に、映ってみる?」
ポカンとした彼女の顔が、徐々に紅潮してくる。
我ながらちょっとさむいこと言ったかと思ったんだけど……
紗百は小さく「ありがと」と言った。
ジャージの上着を脱いで彼女に預け、半袖になった腕をぐるりと回しながら、スタート地点へ向かう。
スタートラインに立って前を見ると、
遠くに小さな紗百がちょこんと突っ立っていた。