キミの風を感じて

高梨は片手を突き出し親指を立てて『グッジョブ』のポーズを見せてくる。


プフ、いーヤツじゃん、と吹きだしたら、ヤツの口の形が動いて「バーカ」と言った。


ム……。


ゲラゲラ笑ってやがる。


それからヤツは手をヒラヒラさせて、どっかに行ってしまった。




目の前の紗百はそれには気づかずに、


「すごかった……」なんて、まだつぶやいている。






「あのさぁ……予定ではここで君が、ギュッと俺に抱きつくことになってんだけど」




なんて言ったら、紗百が「えっ」と固まった。


キョロキョロと辺りを見回して、困った顔で俺を見あげる。




「みんな見てるよ……?」


「いーよ、俺は」




見あげた顔が真っ赤になっていく。



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