キミの風を感じて
「ははは、ウソだよ」
腕を伸ばして、指先でそっと彼女の髪に触れると、フワッと柔らかな、いつもの感触がした。
俺の手が離れるのを目で追うように、紗百が上目づかいに俺を見る。
「あのね、走る加島くんの真剣な顔が、大好きなあの目が、
じっとわたしだけを見てくれて、
真っ直ぐに駆けてきてくれて、
すっごくうれしかった。
夢みたいだった……」
一生懸命くれた言葉。
「それ、早く言えって」
俺が笑うと、彼女もヘヘッて恥ずかしそうに笑った。
「だって感動しすぎて、うまく言葉にならなかったんだもん」
そうして預けていたジャージを差し出しながら、妙に真面目に紗百は言った。
「わたし、今日のこと一生忘れないからね! おばあさんになっても覚えとくから」
「ははは、なんの宣言だよ」
ジャージの袖に腕を通しながら、可愛い決意の表情を見つめていた。