キミの風を感じて
「たぶん行く」
「そっか」
「行かないと加島くんに『なんで来ないか説明して』とか言われちゃいそうだもん」
ブーと膨れてわたしが言うと、ユメちゃんは苦笑いした。
「あはは、確かにね」
加島晴人を知らない人は、我が校にはいない。
かなりの有名人だ。
去年陸上部の新人戦で、彼が出した100m走の記録が、高校生日本記録にコンマ01秒及ばなかったとかで、がぜん注目されちゃったんだ。
『期待の新人現れる!』って感じで。
当時は陸上関係のエラい人とか、大学のスカウトマンとか、専門誌の記者さんなんかが、学校まで練習を見に来てたっけ。
そうそう、このフェンスにも大勢の見物客が並んでいた。
あの頃は加島くんのその記録に、学校全体が騒然と浮足立っていたんだ。