キミの風を感じて

で、その先輩は彼女の髪をブチブチッて無理やり引っぱって、いとも簡単にネットからはずしたんだ。


相当痛かったろうに、立木さんはペコンとお辞儀をして礼を言い……


それから――。




そう。それからスクッと立ちあがって、タッタカ走り出したんだ。


大したレースでもなかったし、時間もないし順位ももう決まってるんだから、別に走らなくてもよかったのに。




『ちょっと、あなた、もういいからさっさとハケちゃって』


進行係からもそう怒鳴られてんのに、立木さんは当たり前のように自分のレースを再開したんだ。


たぶんパニクってたんだとは思うけど。




『さっさとしろよ』的な騒然とした空気の中、平均台から2回も落っこちて失笑を買いながらも、彼女はゴールまでちゃんと走り切った。


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