キミの風を感じて

翌朝――。


いつものようにグランドでストレッチを終え、軽く走ろうとしていると、立木さんは現われた。


ていうか、さっきから少し離れた場所で、彼女が俺を真似て体を動かしているのが、視界の隅に映っていたんだ。


だけど『こっちに来たら』と声をかけていいのかすらわからなかった。




「おはよう」と言ってみると、立木さんは「うん」と短い声を発した。


昨日笑っちまったことをまだ怒ってるようだ。




「軽く流そうか」


彼女を誘ってトラックを並んで走る。
ゆっくりと立木さんのペースに合わせながら。


昨日ちょっと教えただけなのに、手の振りも足の運びも格段によくなっている。


教えたことをひとつずつ確認しながら走ってるのがわかって、いじらしくなった。




彼女はもともと手足がすらっとしているから、続ければ意外といい線いくかもしれない。


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