キミの風を感じて
まさかの間接キスかと思いきや、立木さんはカバンからもう1本、別のボトルを取り出して、ヌッと俺に差し出した。
「ただで教えてもらうのも悪いし」
ムスッと、そんなことを言う。
コーチ料ってとこか?
あらぬ期待を抱いた不埒な自分をいましめつつ、彼女にもらった水を飲んだ。
ひんやりとした感触が渇いた喉をうるおしていく。
「うま」
思わずつぶやいたら、横から見あげる立木さんがちょっとだけ笑った。…気がした。
「月面走り、直るかなぁ」
ポツンともらした声。
彼女は自分のシューズの先に視線を落としていて、なんだか少ししょんぼりと見える。
「もう直ってるよ」
そう告げると彼女は「えっ」と声をあげた。
「マジで?」
「うん。結構きれいなフォームになってきてる」