災厄の魔女
学生達の目は一斉に男性へと向けられる。
話を止め開いた口を結び彼をまじまじと見つめた。
耳をつんざく音を出した拡声器に顔を歪める男性はそれを何処かへと放り投げ、自分に向けられた視線に気恥ずかしそうに頭をかく。
「あぁ、先ずは自己紹介からかな」
そう言うと緩んだ顔を引き締め姿勢を正し真っ直ぐに立つ。
「ランクD、黒き蝶を従うギルド『noir papillon』のギルド長、稲葉 要(イナバカナメ)。よーく覚えておくように!」
真面目に自己紹介したかと思うと最後にはウインクをしてみせる彼。
学生達は一瞬にして凍りつくが、それを気にする様子も無く彼は言葉を続ける。
「他のギルド長達から一番に学生の指名をどうぞって勧められたんだけどそれってさ、ただ単に俺達みたいな低級ギルドは目障りだから、さっさと決めてとっとと帰れって事だよね」
鼻で笑いながら言うが目は笑っていない。
冷めた鋭い視線をギルド長の居る観客席へと向けていた。
「でもよく考えれば俺はラッキーなのかもね。誰一人抜けていないこの学生の中に、一番優秀で才能のある、Aクラスのギルドが欲しがる未来ある子が居ると言う事。先ず始めに指名できる俺は、その人物を獲得する事が可能なのだから」
ハッと息を呑む。
彼の言う事は正しいと誰もが思う。
何故彼を始めに其処に立たせたのかと、ギルド長達は後悔するのだった。