災厄の魔女
たどり着いたのは町外れの廃墟ビル。
その屋上にて、シンリは狙撃銃を設置し身を伏せていた。
その隣にはブランケットに身を包むハルの姿。
カタカタと身を震わせる彼は不機嫌そうな顔をする。
「定刻通り、任務の遂行といきますか」
フッと吐いた白い息は数字へと形を変え、現在の時刻を指し示す。
それが風に吹き消されると共に雲に覆われ身を隠す満月。
真夜中を照らす唯一の灯が消え、闇が辺りを占領する。
何も見えないその暗闇の中、浮かび上がる幾つもの小さな光。
やっと闇に目が慣れた頃、細めたその瞳に映った光の正体に息を呑む。
「な、何だよ、あれ……」
揺れながら此方へ向かって来る小さな光は鋭い瞳。
闇に光るそれは動物のもの。
荒い息を吐き赤い瞳をした狼が、何十の群れとなって此方に向かってやってくる。
「魔力に犯され狂った野蛮な狼。人を喰らう凶暴な奴らが数にして百と言った所か」
スコープを覗き込みながら淡々と述べるシンリ。
怯えた様子はこれっぽっちも感じない。
「ちょっと待て!この数を独りで相手する気とは言わないよな!?」
「何を言ってる。独りで相手するに決まってるだろ」
当たり前のように言ってのけるシンリ。
彼女の言葉にハルは唖然としポカンと口を開けた。