災厄の魔女
バラバラに散った狼達は物陰に隠れながら廃墟ビルの屋上、シンリを目指す。
「手を出すなよハル。これは私の引き受けた依頼だからな」
狼達の動きの先を詠み魔力を込めた銃弾を放つシンリは振り返る事無くハルに言う。
圧倒されるハルは言葉を発する事も無く、只々首を縦に振って返事を返した。
幾度と無く鳴り響く銃声に火薬の臭い。
ライフルを手放したシンリを目にハルは終わったのかと息を吐く。
が、振り向いた瞬間手にした拳銃の銃口をハルに向けるシンリ。
「これで終わりだ」
「な、何を……」
躊躇い無く引き金を引くシンリ。
ハルは後退り身を守ろうと思考を巡らすが間に合わない。
響いた銃声に目を瞑り、肩を竦め身を強ばらせる。
意味も分からぬこのまま死ぬのか…
そんな事を思っていたが、いくら経っても身体に痛みは走らない。
変わりに背後で何かが落ちる音が聞こえ、恐る恐る目を開き振り返ると其処には一匹の狼が倒れていた。
「オールクリア……!」
両手を挙げ思い切り伸びをするシンリは背中から倒れ寝転がる。
彼女はハルにではなく、ハルを襲おうとしていた狼へと銃口を向けていたのだ。
その事実にホッと胸を撫で下ろすハルは膝をつきシンリへと目を向ける。
文字通り百発百中。
放った銃弾の内1つも狙いを外す事無く全てが的中。
無駄と言うものを感じさせない動きに感心し、彼女の銃の腕を認めるのだった。