災厄の魔女
座り込んだままハルを鋭く睨む少女は魔力を高める。
「『紅に染まりし朱き花 その身を揺らし咲き誇――』」
低い声で魔法を唱える彼女だが、何かに気づき途中で詠唱を止め振り返る。
と言うのも、先程まで唸りながら吹き荒れていた突風がぷつりと一瞬にして止んだからだ。
「な、何!?」
自らを中心にして巻き起こる風が姿を消した事に驚く男。
一通り辺りを見渡した後、前方のタクミへと目を向ける。
「空気の流れを遮断しただけです。そんなに驚く事は無いと思いますが」
「っ……」
余裕綽々のタクミを睨む男は苦虫を噛み潰したような顔つき。
新たな魔法を唱えようと口を開くが、頬を掠る風に目を見開く。
「なっ…詠唱無しだと……!?」
「御名答。詠唱など時間の無駄ですからね」
緊張感を感じさせないタクミの周りに吹き荒れ始めた冷たい風。
刃を持つそれは先程男が使っていた魔法。
この短時間で構成を見抜き自らのものとし使いこなす。
頬を血が伝うのを感じながらも拭う事は無く、信じられないと言葉を失う男は後退る。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
男の様子を気にする事無く、にこやかに微笑むタクミはスッと片手を振り上げた。