災厄の魔女
吹き荒れる風に身を斬りつけられ、我に返った男は咄嗟に防御魔法を唱えるが間に合わない。
「くっ……」
「これに懲りて二度と僕達には手を出さないで下さいね」
「うるさ――ぐはっ!!」
耐える男はタクミに食らいつくも、その身は強風に煽られ宙に浮く。
そして為す術も無く飛ばされる身体は壁に激突。
激痛に顔を歪め唸る男はズッと壁を伝い地に倒れ、そのまま意識を手放した。
「き、貴様ー!!」
「おっと……女性を傷つけるのは好きじゃないんですよ。だから、大人しく眠っていて下さい」
詠唱途中だった魔法を唱え直し、構成した炎を拳に纏わせ殴りかかる少女。
その攻撃を振り返る事無く首を傾げただけでかわすタクミは少女の鳩尾を突くと魔法でもって眠らせる。
「……」
少女を優しく横たえる彼を見つめるハルは驚き目を見開き口を開き、信じられないと力無く膝から崩れ落ちる。
彼の力が思った以上に凄すぎて、言う言葉が見つからない。
質の良い安定した魔法を使うには、長ったらしい詠唱が必要だ。
それは魔法の強さが上がっていくと共に長くなる。
なのに、彼はそれ無しに魔法を使用した。
Aクラスのギルドの者でも、簡単な省略はするものの完全に詠唱無しと言う者は数少ない。
詠唱無しでは構成が不安定で、強い魔法では暴走し制御不能となれ恐れもあり、それだけリスクが高いのだ。
なのに彼はまるで簡単に、当たり前のようにやってのけた。
しかもそれだけで無く、格上の者2人をいとも簡単に、一瞬にして戦闘不能にさせている。
そんな彼が信じられなくて、何か夢でも見ているのではないかと疑ってしまうハルは自分の頬を抓ってみるのだった。