災厄の魔女
「それにしても、夥しい量の魔力の名残を感じるね。吐き気がするよ」
「消そうにもそれさえ出来ぬ程の量と言う事か、それとも、故意に魔力を残し挑発しているのか。どちらにせよ、手強い相手と見るべきだ」
低めのブロック塀の上、バランスをとりながら歩く少年は緊張感無くにこやかに言う。
顎をさする中年の男は真剣な面持ちで、眉間に深く皺を刻み考える。
「ん?」
小石を蹴り気怠そうに歩いていた黒髪の男。
何かに気付いた彼は足を止め、伏せていた顔を素早く上げる。
「っ!?」
彼が動きを止めた瞬間、何かが猛スピードで顔の真横を通過。
勢いの衰えぬそれは圧縮された空気の弾。
男の頬を傷つけると鉄の壁にぶつかり穴を開ける。
「…この魔法は……」
何か覚えのある様子のミヤビ。
ゴクリと喉を鳴らすと上空を見上げ息を呑む。
「よく交わせたな、誉めてやろう」
高い位置から聞こえる女性の声。
瞳に映ったのはモカブラウンの揺れる髪。
「但し、生き残れたらの話だが」
建物の屋上に腰掛ける女性、柴架は其処から飛び降り優雅に地面に着地した。