災厄の魔女
ご丁寧にアイマスクまでしていびきをかき始めたのは、ダークブラウンの髪をウルフカットにした細身の男性。
何度肩を叩き呼び掛けようが目覚める様子は無い。
焦る講師は彼の付き添いで来ているであろう隣に座る少女へと目を向けるが、彼女も彼同様に可愛らしいアイマスクをして眠りについていた。
「嘘だろ……」
彼女の膝の上に置かれたノートパソコンの画面上には、『お昼寝中。起こさないでね(ハート)』と書かれたテロップが流れ続ける。
「ハハッ……」
遂には寝言を言い笑い出した2人。
その姿に引いた男性は苦笑しながら後退る。
何なんだこの2人は。
どうなっているんだこのギルドは。
有り得ない。
ふざけてる。
やる気がこれっぽっちも、微塵すら感じない。
周りはこんなに張り詰めた雰囲気を醸し出しているというのに、何呑気にいびきなんかかいて眠っているんだ。
と言うか、アイマスクって…
寝る気満々だったとしか言いようがないだろう。
まったく、こんなギルド長の仕切るギルドに入る子は何て気の毒なんだ。
可哀想にも程がある。
そんな風に内心思う講師の男性。
彼は2人の姿を見なかった事にするのだった。