闇夜に真紅の薔薇の咲く
学校についたのは家を出て十分経った頃だった。




まだ人がまばらな校内を腕を引かれるがままに走り、教室に足を踏み入れる。




柚梨とは席が前後になっていて、朔夜は柚梨の後ろの席である自分の席に半ば倒れるように座り込んだ。





椅子の足と机の足がこすれあい、ものすごい音がして数人のクラスメートが振り返るがそんなことは気にしない。






呼吸が出来ない。息を吸うことが難しすぎる。





額の汗を拭って、朔夜は机の上に突っ伏した。








「ゴメン。朔夜。大丈夫?」







大丈夫なわけがない。





運動神経などないと言っても過言ではない彼女にとって、あの距離を休憩もなしに走り続けるのは自殺行為だ。





それでも、今にも泣き出しそうなほどに申し訳なさそうな表情の柚梨を見るととてもそんなことは言えるはずも無く、朔夜は荒い呼吸を繰り返しながら無理に笑顔を形作る。







「大、丈夫……。心配、しない、でっ」







息切れのせいで不自然なところで言葉が切れる。





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