闇夜に真紅の薔薇の咲く
今は授業中。廊下は当然ながら誰もおらず、がらんと静まり返っている。


何も支障がないからなのか。ルイは難しい表情をしたまま、大股で廊下を歩き、朔夜は小走りになって彼のあとにつく。


時差、ルイの声をかけたけれどそれはことごとく無視され何度も手を振りほどこうとしたけれど、逆にきつくにぎられてしまう。


保健室に入り、ようやく手をふりほどけた朔夜は軽く息を弾ませながらルイを見上げた。



「ど、どうしたの……っ?」



肩で息をしている朔夜に初めて気づいたのか。彼は僅かに目を見開くと慌てたようにこちらに近づく。




「あ、ごめん。大丈夫?」




彼女は無言で首肯し、「とりあえず座ろう」と促され適当な椅子に腰かける。


しばしの沈黙が室内に流れた。重苦しいそれに、朔夜は息をつめると沈黙を破るように保健室の扉が開く。


びくりと肩をはねさせ、反射的にそちらを見るとそこには無表情のノアールが無言でこちらを見つめていた。




「え。何でノアールが……? まさか、どこか具合が悪いの?」

「バカ。抜け出して来たに決まってるだろ? 俺はいたって健康だ」




表情一つ変えず彼は朔夜を一瞥しただけ。


本気で心配していたのにバカ呼ばわりされ、少しばかりむっとするけれど彼はそれには気づいておらず、つかつかと彼女と少し離れた椅子に腰かけるルイの元へ向かう。


未だ、何か考え込むような表情をしている彼はカードを弄び、じっと地面を見つめていた。


明らかにいつもと違う彼に、ノアールは訝しげに眉をひそめる。




「何か、あったのか?」




発された声は心なしか硬い。


ノアールの声をきいてのろのろと顔をあげたルイは、いつもの薄い笑みを消した真剣そのものの瞳で彼を見上げると、「うん」とだけ頷いて先ほど朔夜が渡したカードを手渡した。






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