闇夜に真紅の薔薇の咲く
「ノアール?」



もう一度、彼の名を呼んだ。


彼は朔夜の言葉に答えるようにさらにきつく抱きしめると、切なげな……今にも消え入りそうな声で耳元に唇を寄せる。



「――今度こそ、絶対に離さない。お前を……守ってみせる」

「……」



何も言えず、朔夜はほぼ無意識に彼の背に手をまわした。

 
彼女の首筋に顔をうずめるノアールが一体どんな顔をしているのか、朔夜には分からないけれどどうしてか彼が泣きだしそうな気がして。


彼女が不用意に言葉をかけようものなら、崩れ去ってしまいそうなほど儚く感じる彼を背力強く抱きしめる。


大丈夫。安心して、とありきたりな言葉を胸の中で何度も何度も呟きながら。


一体何分、そうしていたのか分からない。


ただ目を閉じてノアールを抱きしめていた朔夜は、「あのさー」と言うルイの言葉でハッと我に返った。


目を開けば、いつも通りの表情をした彼。


彼は目が合うなりにっこりとほほ笑むと、無邪気に首をかしげる。




「二人っていっつも人目も構わずラブラブやっちゃってくれてるけど、付き合ってるの?」

「は、はぁ!?」

「……別に」




温度差のかなりある声が重なる。


慌てて身体を離した朔夜に、ノアールはふぅと息をつきルイの隣の椅子に腰掛けた。


いつも通り変わらぬ彼に、慌てていた自分がとても恥ずかしくなり俯くと、ルイがくすくすと笑みを零す。




「別に、恥ずかしがらなくていいんだよ。ノアールはね、表情がなさすぎなんだよ。見ててつまらない。けど朔夜ちゃんは……」



不自然なところで言葉を区切り、ルイは悪戯っぽい笑みを浮かべるとぴっと人差し指をたてた。



「すっごく面白いよ。見てて飽きない」

「…………」



果たして、これを褒め言葉と受け取ってもいいのやら。


複雑な心情に何とも微妙そうな表情を浮かべると、ノアールの呆れたようなため息が落ちた。







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