闇夜に真紅の薔薇の咲く
何の飾り気も無く、どちらかと言えばシンプルな絵。


唯一存在感があるものと言えば、毒々しいまでに真っ赤に染まった薔薇の花だろうか。


目を丸くしている朔夜に、笑みすら浮かべずルイが頷いた。




「うん。そうだよ。それもこれは……――闇の姫が国を統一していた時の紋章だ」



すでに聞きなれてしまった名前に、朔夜は静かに目を伏せる。


闇の姫。朔夜が彼らと関わることとなったのも、彼女が死に際に発した言葉が原因だ。


彼女が統一していた時の紋章ともなれば、二人がこんな表情をするのも無理はない。


魔界にとって――彼らにとって、闇の姫は敵である。


こんな紋章など、本当は見たくもないはずだ。


瞳を開けると、ルイとノアールが共に難しげな表情をしてカードを凝視していた。


そして、不意にルイの瞳が動く。




「ねぇ、ノアール」

「何だ?」

「これが朔夜ちゃんの机の上においてあったってことはさ、もしかして――……」

「あぁ。アイツらが本格的に動きだしたと、そういうことだな」

「やっぱり……」




ルイは瞳を閉じると、珍しく深いため息を落とす。


そして、ゆっくりと瞳を開けた時朔夜は思わず戦慄した。


全てを凍らせてしまうような冷たい瞳。


どこまでも冷酷な色を宿す瞳は、どこか遠いところを見つめている。




「……邪魔だな。アイツら」



二度目だった。


彼のこんな表情を見るのは。





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