闇夜に真紅の薔薇の咲く
Xx.+.


「ねぇ、ノアール」

「あぁ。聞こえていた」



朔夜には聞こえなかった斗也の声は、死神二人の元へはしっかりと届いていた。


死神は普通の人間に比べて聴力が非常に良い。


特殊な訓練を受けていると言うこともあるが、魂を見つけるためには聴力も必要になってくるため元々耳の良い者にしか死神にはなれないのだ。


ルイは口端に冷たい笑みを浮かべると、軽く握った手を唇にあてる。



「宣戦布告って受け取って良いんだよね? ……面白い」

「何が面白いだ。下手に手を出すなよ。――もちろん殺すなんて論外だ」



生き生きと輝くルイの瞳を見てあらかじめ釘をさすと、彼は唇を尖らせた。


「えー」と拗ねたような抗議の声を右から左に流し、ノアールは斗也の去って行った扉を見つめる。


――お姫様。


彼は確かに、去り際にそう言った。


先ほど朔夜に話しかけていたような優しげな声ではなく、どこか子供めいた悪戯っぽい声で。


通常の男子校生より少し高めのその声は、耳障りと言うよりは少年を彷彿とさせる幼いもので、ノアールは僅かに眉をひそめる。


(どこかで、聞いたことがあるような……)


地面に視線を落とし、ノアールは過去の記憶を掘り起こす。


が、過去に遡れば遡るほど曖昧になっていくそれに彼は深くため息をついた。



「ダメだ。思い出せない……」



彼は、人よりはるかに長い時を生きている。


半端ではない情報量を蓄えるその頭も構造はほとんど人間と同じだ。


かなり昔のことなど新たな記憶に埋もれてしまう。












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