闇夜に真紅の薔薇の咲く
どこが、と彼を見上げて朔夜は思ったがその疑問は口に出さないことにした。


あとかたも無く消滅した悪魔たちがいた方角を見やりながら、ノアールは疲れたようにため息をつくと手を一振りする。


すると、今まで彼の手の中にあった大鎌が大気に解けて消えていった。


先ほどまで朔夜の絶叫で騒がしかった特別棟は静かになり、無意識にあたりを見回す。


まだアイツらは残っていないだろうか、と視線をあちこちにやっていた朔夜だったが唐突に額に鋭い痛みがはしった。


軽くのけ反りじわじわと拡がって行く痛みに額を抑え、不意をついた相手を涙目ながらに探す。


まず、背後を振り返って笑いをこらえているルイをじとめで見つめた。


彼は口元を手で覆って肩を震わせ、必死に耐えているようだっが、こちらからすればいっそのこと声をあげて笑ってくれた方が断然いい。


彼が笑っているとなると、彼女にデコピンをくらわせた相手はただ一人。


じっとりとした視線で、朔夜は淡々とした表情のノアールを睨みあげ、抗議の視線を向ける。


けれど、そんな視線を向けられても彼はどこ吹く風。


素知らぬ顔で廊下から見える中庭を見下ろしていた。




「……ノアール」



聞いたことも無いような、発した朔夜でさえ驚くほどの声が廊下に響く。


そのことにルイは驚き、朔夜の顔を覗き込もうとするけれど彼女はそれを無視してノアールを見つめた。


正直、デコピンされた意味が分からない。


彼の神経を逆なでするようなことを言っただろうかと考えを巡らせても、何一つとして思い当たる節がない。


地味に拡がっていく痛みは消える気配を見せず、朔夜は額をさする。


(痛い……)


ぽつっと心の中で呟いた時、今までずっと窓の外を見つめていたノアールがこちらを向いた。


彼はいつも通りの静かに凪いだ瞳で朔夜を見つめると、口を開く。




「どうして特別棟何かに居るんだ……。教室で待っていろと言っただろう?」

「あー。そうだよ朔夜ちゃん! 勝手に動きまわったりしたら危ないでしょ。特別棟に行くんだったらせめてオレかノアールのどっちかに伝えてもらわないと。
探すの苦労したんだよ?」

「……ごめんなさい」




二人同時に言われて、朔夜はしゅんっと項垂れた。


なるほど彼が怒っていたのはこれか。





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