闇夜に真紅の薔薇の咲く
その迫力に、ルイは表情を引きつらせると一歩後ずさる。

ひろがった二人の距離を縮めようと、朔夜は一歩踏み出した時。

得体のしれない寒気と視線を感じ、朔夜は弾かれたように背後を振りかえる。

けれどそこには、当然ながら誰もおらず朔夜は息を呑んだ。

(何? 今の……)

感じたことのない寒気。それは風邪を引いた時に感じるそれではなく、どちらかと言えばホラー映画を見た時のそれに近い。

恐怖と困惑。朔夜は無意識に自分を抱きしめるようにすると、先ほどまで彼女の迫力に引いていたルイがいきなり彼女の腕を引いた。


「え、ちょ、何!?」

「ごめんね。朔夜ちゃん。説明してる暇はないんだ。とにかく、走るよ!」


突然のことに反応の遅れた朔夜は後ろにのけ反りかけ、慌てて体制をたて戻すと先を走るルイに困惑の視線を向ける。


一体、何事だと言うのだ。


理解できず、朔夜はほぼ無意識に後ろを振り返る。てっきり、後ろについて走っていると思っていたノアールの姿がないことに朔夜は驚きを感じたが、それ以上に後から見た光景に思わず悲鳴をあげそうになった。


(何アレ……ッ!)


いつの間に現れたのやら。黒づくめの軍団が、ノアールを取り囲んでいた。

黒いマントから覗く指や、フードから少し見える顔は生気がなく、ノアール達と会うきっかけとなった男女を連想させる。

黒づくめの代表者らしき一人の者が、一歩前へ出ると、何事かをノアールに語りかけた。

話しかけられたノアールはその美しい顔を忌々しそうに歪めると、言葉を紡ぐ。

彼の言葉を聞き、黒づくめの者は紫色に変色した唇を不気味に釣り上げると、不意にマントを払うような仕草をした。

生きている人間とは思えない、土気色の腕が姿を現す。それを見て、思わず朔夜が目をそらした瞬間である。

――視界の端にかろうじて映っていたノアールの肩から鮮血が散ったのは。



「え……」


予想外のそれに、朔夜は彼らに視線を戻す。

そこにあったのは、先ほどとは少し違った光景だった。

どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる黒づくめの者と、忌々しげに表情を歪め、右肩を抑えるノアール。










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