闇夜に真紅の薔薇の咲く
右肩からは指の間を縫って鮮やかな血液が溢れ、廊下に赤い水たまりを作っている。

彼が傷つけられているのだと、理解するのに数分。

どんどん小さくなっていくノアールを呆然と見ていた朔夜はふと我に返ると、自分の腕を引っ張り先を走るルイの腕を振りほどこうともがいた。



「朔夜ちゃん!?」


予想外の行動だったのだろう。

突然、抵抗しだした朔夜をルイは驚いて振り返る。



「何してるの!?」


彼女が後ろを振り返ったことなど知らないルイは、困惑の表情を浮かべながらも彼女を離すまいと腕を掴む指に力を込める。

朔夜の腕にルイの爪が喰い込んだ。鋭い痛みに一瞬顔をゆがめながら、朔夜は背後を振りかえる。

そこには何十人もの相手と応戦する、ノアール。

彼女の視線を辿ったルイは朔夜の突然の行動の意味を理解し、首を振った。



「ダメだよ。朔夜ちゃん」

「どうしてっ!?」

「君は、あれが何だか分かってるよね?」



焦りを滲ませる彼女とは対照的に、冷静なルイはまるで幼子に言い聞かせるようにゆっくりと朔夜に視線をあわせて問いかける。

朔夜は彼の言葉に目を見開くと、抵抗をやめルイから地面へと視線を滑らせた。

彼が指す“あれ”とは、黒づくめの者たちのことだ。

わざわざ彼らの正体を聞いてきたということは、彼女が知っている者たちだと言うこと。

つまり……。

(私を、狙う人たち)

闇の姫の覚醒を待ち望み、誰かに復讐することを願う者。






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