闇夜に真紅の薔薇の咲く
瞳を伏せ、彼は薄笑いを浮かべながら近くの机に指を這わせる。

窓から覗く厚い雲に覆われた空を背景にした彼の姿はとても美しく、そして恐ろしい。

震えそうになるのを拳を握り必死に耐えながら、朔夜はすっと目を細めた。

唇を釣り上げ、笑みを形作る彼の目は、全くと言うほど笑っていない。

彼の瞳に宿るのは底冷えするほどの冷たい光。

それを認めた朔夜は、確かに恐怖を感じながらも、それを見せまいと更に拳に力を込める。

――敵か、味方か。

それは朔夜にではなく、彼女の前世である闇の姫にとって。

彼は見方であったのか、はたまた敵であったのか。

先ほどの彼の言いようでは、彼は彼女にとって見方だと捉える事が出来る。

が、朔夜だって得体の知れぬ存在の言葉を鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。

冷たい光を宿す彼と、数分間見つめ合う。

けれど、どれだけ見つめ合ったところで過去の記憶が思いだせない彼女には、彼が敵であるか見方であるかなど分かるはずも無い。

苛立たしげに顔を歪める彼女に、青年は下手な笑みを向けた。



「私が敵か味方か、知りたいですか?」

「……。ええ。知りたいわ。何せ、私には敵が多いようだから」

「おやおや。随分と強気な態度ですね。先ほどの脅えきった態度とは大違いだ」



心なしか冷めた声で言葉を紡ぐと、彼は不気味に口端を釣り上げる。

その笑みを見て、朔夜はぞっとして一歩後ずさった。

冷たい光をたたえた瞳に、初めて映った確かな感情。

それは、明らかな恨みと、力を欲する物のそれで。






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