闇夜に真紅の薔薇の咲く
何をバカなことを、とでも言うような視線を向けられ朔夜は戸惑う。






――今、目の前で起こっている現状が全くと言っていいほど理解できない。






なぜならば、それらすべての内容を自分が全く把握していなかったからだ。






夜空は数年一緒に暮らす、と平然と言ってのけた。





そして、母もそれを連想させることを言っていた。






この感じだと、恐らく父も彼らが一緒に住むことを知っているだろう。






会社から帰ってきた父が二人を笑顔で迎えるのを想像してため息をつき、楽しそうに会話をしている母たちをみる。






この家で、彼らが居候することを知らなかったのは自分だけだ。






自分だって家族の一員なのだから、話してもらっても問題はないはずなのに自分だけ話してもらえていなかった。






そのことに一抹の寂しさを覚えつつ、仲睦まじく会話をしている彼らの横を通り自分の部屋へ向かう。






そして、乱暴に鞄をベッドの上に投げ捨てると、半ば自棄になってベッドに飛び込んだ。






ベッドは数回激しく揺れ、後は何事も無かったかのように彼女を包み込む。





布団をぎゅっと無意識に握り締めながら、目を閉じるとゆっくりと息を吐きだした。





身体からいらない力が抜けて行く。





朔夜は一つ寝がえりを打つと、枕を抱きしめて顔をうずめた。





(……訳の分からないことばっかり)




昨日から、今日にかけて、信じられないことがいくつも起きた。





始まりは、全てあの悪夢からだと言うことは分かっている。




(全部、夢だったらいいのに)




自分が黒ずくめの男に異世界に連れ去られそうになったことも、彼らが転校してきたことも、彼らと一緒に住まなければならないことも。全て――……。




そこまで考えて、朔夜は思わず苦笑を漏らした。




つくづく自分も諦めの悪い、と心中で呟き何度目か分からないため息をつく。





分かっている。これは全て現実だ。




いくら自分が願っても、これが現実であることは変わりない。





これは所詮、自分の勝手な願いだ。








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