闇夜に真紅の薔薇の咲く
予想していたこととはいえ何か物足りなくなって頬を膨らませて拗ねると、深々としたため息が聞こえた。






てっきり短く拒絶の言葉を言われるとばかり思っていた朔夜は小首をかしげると、不意に髪が優しく撫でられる。






驚いて目を見開いて固まると、いつの間にか間近に迫ったノアールの綺麗な顔に気づき更に大きく目を見開いた。






ノアールはふっと悪戯っぽい笑みを浮かべると、彼女の頭から手を離す。








「仕返し。……早く起きろよ。夕飯出来たらしいから」








それだけ言うと、彼は立ち上がり部屋を出て行く。






閉じられた扉を見つめながら、朔夜は熱くなった頬を抑えた。








「し、仕返し?」






予想外のことが起きたからだろうか。






何となく霞んでいた意識がはっきりとし、ノアールの予想外の行動と表情に今更ながら心臓が速く鼓動を刻む。







初めて会って勝手に抱いた印象は、クールでポーカーフェイス。






邪魔なものはどんなものであっても殺す、そんな人に思っていたけれど……。









「……あんな表情もするんだ」







ぽつりとつぶやかれた言葉は、闇の中に吸い込まれて消えて行った。






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