闇夜に真紅の薔薇の咲く
階段を下りてダイニングへと向かうと、珍しく家族全員がそろっていた。







普段はこの時間にいるはずのない父親がいつの間にか帰ってきており、ノアールとルイと夜空と楽しげに談笑している。






母はその会話を楽しそうに聞いており、その顔には見惚れてしまうほどの美し笑みがのせられていた。






朔夜の父と母は夜空と同じ部類に入る。






容姿も顔立ちも整っていて、今は専業主婦をしている母は昔モデルだったとか。






父に関しては今をときめく現役の俳優で、いつも家を開けていることが多く今日も確か映画の撮影で遅くなると母から聞いていたのだが、どうやら仕事が早く終わったらしい。







……美系たちが囲んでいる食卓に、果たして平凡な自分が入ってもいいのだろうか。






普段はそんなことは気にしない彼女だが、この時ばかりは考えられずにはいられなかった。





現役俳優の父に、元アイドルにして今も美しい容姿を保っている母。






学校では王子と呼ばれ街を歩けばモデルにスカウトされる兄に、正体不明の美系、ノアールとルイ。






彼らが笑いあう背景に、何故か中世ヨーロッパなどで出てきそうなションでリアや薔薇などが飾られたダンスホールが見える。






そんな異世界と化したダイニングのテーブルに、ただ一人入ることが出来る扉の前で呆然と突っ立っていた彼女に気づいたルイが不思議そうにこちらに視線をくれて小首をかしげた。








「朔夜ちゃん? どうしたの。そんなところに突っ立って」







その一声でやっと気づいたのか、家族の視線が一斉にこちらを向く。






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