闇夜に真紅の薔薇の咲く
ダイニングの扉を開けて席につくと、テーブルの上にはすでに朝食が用意されており、少女はにこりと微笑むと手をあわせた。





「いただきまーす!」

「はい。どうぞ。……って、朔夜!?」

「んー……?」







朝食のサンドイッチを頬張りながら、少女――朔夜は驚いたように声をあげる母の方を向く。





母は声の通り驚いたように目を見張っていて、サラダでも作っていたのか持っていたドレッシングを取り落としそうになり慌てて持ち直す。






「どうしたの!? こんなに早く起きて……。明日は雪でも降るのかしら?」

「降らないから!!」

「どうかしら」






頬に片手をあてて小首をかしげる母親。






失礼なことこのうえない。普段はぎりぎりまで眠っている朔夜がこんなに早く起きるのは本当に稀だ。





雪が降るとかそういうことを言われても仕方がないのだが……。





僅かに眉をひそめてサンドイッチを口に運ぶと、ダイニングの扉が開き入ってきた人物は中途半端なところで足を止め、朔夜を見るなり目を丸くした。







「朔夜!? どうしたこんな朝早くに……。熱でもあるのか?」

「ないから!」

「……つぅことは、明日は雪か。寒いのは苦手なんだけどな…」

「だから、降らないってば!!」






人が早く起きてくるたびに雪が降るだの、何だのと言うのはやめてほしい。





扉もあけっぱなしでブツブツつぶやいているのは朔夜の兄、花片夜空(ヨゾラ)だ。





一つ年上の彼は朔夜と同じ高校に通う高校二年生。





容姿端麗で運動神経抜群。勉強も出来て、人当たりもものすごくいい。





学校では王子様として人気の夜空の妹である彼女は、学校では女子からの妬みの視線や羨みの視線を常に受けていた。





同じ母から生まれたのに何故ここまでに差が出来るのか。





学校での生活を思い出しただけで憂欝な気分になりため息をつくと、夜空は彼女の隣に腰掛けサンドイッチを頬張り、そう言えば、と朔夜に視線を向ける。








「お前、夜うなされてなかったか? 何か悲鳴が聞こえて来たんだけど……」

「あー……。うん。ちょっと悪夢見ちゃって……」

「そりゃ、ドンマイ」

「どーも」












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