闇夜に真紅の薔薇の咲く
次元の違う言葉を何となく聞いていた彼女はそのことに少し驚きつつ、彼を見つめ返すと柔らかな微笑が返ってくる。








「オレたちはね、魂を狩る者。――まぁ、簡単に言うと死神だね」

「しに……がみ……?」

「うん、そう。朔夜ちゃんも知ってるでしょ? 大鎌振りまわして魂を狩る者。――あぁ。ここでは、死期が近い者の魂を狩る存在でもあるんだっけ?」








柔らかな微笑をたたえたその表情で、彼は明らかに不似合いな言葉を紡ぐ。





それを理解するには、数分の時間が必要だった。





淡々と紡がれたあり得ない言葉の数々は朔夜の頭の中で渦を巻き、ようやくそれを整理出来た時彼女はこれ以上ないほど目を見開いた。








「し、死神――!?」

「うん。そうだよ」

「も、もしかして。私の魂を狩りに来た……とか? もうすぐ死期が近いから……」







血の気が一瞬にして引いて行く。





生きている自分の前に死神が現れた。つまりは、そう言うことだろう。




昨夜は気が動転して思わず言い返してしまったが、そう言えばノアールが言ったではないか。




大人しく命を差し出せ、と……。





生物が死ぬことはこの世の摂理だ。……何があっても、抗うことは出来ない。





“死”を初めて実感した途端、後悔が波のように押し寄せてくる。





一度でいいから恋をしてみたかっただとか、もっと友達と遊んでおけばよかっただとか。





そんなことを思っていると、目頭が熱くなり知らず嗚咽が漏れていた。





滲む視界で、ルイの慌てたような表情と呆れたような表情でルイを見るノアールが目に入る。








「え、えっとね、朔夜ちゃん! 泣かないで!」

「む、無理……ですよ……っ。だって、私っ……死ぬん、でしょっ?」

「や、死なないから! 安心して朔夜ちゃん! ――オイ、ノアール。そんな視線オレに寄こすぐらいだったら助けろよ!!」

「知るか。ややこしい言い回ししたお前が悪い。お前が巻いた種だ。自分で回収しろ」

「お前……っ、つくづく冷たいな!」

「何を今更」






















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