闇夜に真紅の薔薇の咲く
鼻で笑って再び本を読むノアールをルイはじとりと睨みつける。





それを涼しい顔で受け流したノアールは、しゃっくりをあげて次から次へと溢れだす涙を拭っていた朔夜を見かねてかため息をつくと、彼女の隣に腰掛けぽんっと優しく頭に手をのせた。






「泣くな。俺たちはお前の魂を狩るためにお前の前に現れたわけじゃない」

「でも、昨日――っ!」

「……気が変わった。俺たちはもうお前を殺そうとはしない」






ばつの悪そうに視線をそらし、ノアールは素っ気なくも優しく朔夜を慰める。





果たして信じてもいいのだろうか、と相変わらず止まらない涙を袖で強引に拭いながら考えているとノアールが動く気配がした。





不思議に思って隣を見るとそこに彼はおらず、首をかしげるとどうしてか下から視線を感じ下を見る。





と、かなり間近に淡い青の瞳があり朔夜は飛び上がった。








「――ッ!?」

「信じられないか?」

「え……?」

「お前を殺さないと言う俺の言葉。信じられないか?」







じっと、澄んだ空のような瞳が彼女を見つめる。





それに少したじろぎながら、朔夜は視線を右往左往させた。




信じている、と言えば嘘になる。




彼らは確かに昨日自分を殺そうとしたのだ。




なのに何故、今日になって殺すことをやめたのか。




自分を油断させるための嘘だろうか。




それとも、一時の気の迷いだろうか。




考えれば考えるほど混乱し、訳の分からない方向へと想像が膨らむ。




もしかして、俳優である父のファンで近づきたいがために嘘をついているのでは、と最早関係のないことを考えていた朔夜はツンツンと軽く髪を引っ張られたことで我に返り、違和感を感じる方へと視線をやるとそこにはノアールが不思議そうな瞳で彼女の髪を掴んでいた。







「あの……?」






どこか可愛らしくも感じるその行動に首をかしげると、彼は数回瞬きをしてはっとしたように急いで髪から手を離した。






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