闇夜に真紅の薔薇の咲く
ノアールは、一度は朔夜を殺そうとした者だ。






そんな者の言葉など、信じる方が愚かだろう。





そんなことはちゃんと分かっている。





分かっては、いるのだけれど――……。







「……は、い」







こくりと素直に頷くと、ノアールは少し意外そうに目を見開く。






彼自身、朔夜が自分の言葉を信じてくれるなど思っても見なかったのだろう。






溢れそうになる涙を強引に袖で拭うと、昂った感情を抑えるため一度目を閉じて深呼吸を繰り返す。






深呼吸を繰り返すたびに落ち着いて冷静に物が考えられるようになり、朔夜はゆっくりと目を開けた。







視界に入ったのは、心配そうな表情をしてこちらを見るルイと、未だ驚いた表情を浮かべるノアール。







――彼らのことは、まだ完全に信じたわけではない。






けれど、恐らく彼らの言葉に嘘偽りはないだろう。






何故だ、と問われれば上手く説明できる自信はないけれど彼らの言葉は信じるに値する。





そう、本能が語っていた。





こちらを見つめる二人に「続けて下さい」と笑みを向けると、ノアールは朔夜の隣に腰掛けルイは無言で首肯すると、口を開く。







「朔夜ちゃんはね、“闇の姫”の生まれ変わりなんだ。あ、ちなみに“闇の姫”は“災厄の姫”とも言われてるね」






付け足されたよくわからない言葉に、朔夜は微かに首をかしげた。





“災厄の姫”。





そう言えば、彼らと初めて会った際ノアールが自分に向けてそう言っていなかったか。





出来れば思い出したくもない昨夜の記憶は、少し意識すれば鮮明に脳裏によみがえる。





そのことに少し眉をひそめつつ、朔夜は自分の疑問に間違いのないことを確認して視線を地面に落とした。






彼は朔夜のことを、“災厄の姫の生まれ変わり”と言った。






彼らが魔王に自分を殺すよう命じられたのならば、何故彼は自分の名を呼ばなかったのだろう。






もしかして、と朔夜は目を細める。





もしかして、彼らが殺すよう命じられたのは朔夜ではなく災厄の姫とやらの生まれ変わりではないのか。






導きだした推測を口にすると、ルイは目を見開いた。










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