闇夜に真紅の薔薇の咲く
そのあまりの激しさに背筋が凍った。





恐怖で呆然と突っ立っていた朔夜だったが、不意に肩を揺さぶられて我に返る。





みれば目の前には困惑したルイの顔が間近にあり、視界の隅に見えるノアールの表情もどこか青ざめていた。





額に嫌な汗がにじむ。それを袖で拭って、いつの間にか乱れていた呼吸を深呼吸をして整え、深々と息をつく。





何だったのだろう。今のは。





見慣れない光景。自分に憎しみの視線を向ける者は皆、中世のヨーロッパの人たちが着ているようなものだった。





夢でも、見ていたのだろうか。





視線を地面に落とすと、肩にあった温もりが消える。





思わず顔をあげると、ルイとノアールが深々と息をついていた。ルイにいたってはその場に座り込んでしまっている。





朔夜は目を瞬かせると、とりあえず立ち上がってルイに手を差し伸べた。








「あの……、大丈夫ですか?」







首をかしげると、顔をあげたルイが力なく笑って彼女の手を取る。





彼は立ち上がると朔夜の手を離し、隣を振りかえった。




彼女も同じように視線を走らせると、そこには青ざめた表情のノアールが目元を片手で覆って俯いている。




どこか具合でも悪くなったのだろうか。




心配になって朔夜は彼の元に歩み寄ると、おもむろに額に手をのばす。




ノアールは突然の彼女の行動に目を瞠った。






「熱は……ないようですね」

「……」

「大丈夫ですか? 具合が悪いのなら早く寝てください」

「……いや、大丈夫だ」







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