闇夜に真紅の薔薇の咲く
ため息をつき、ノアールは朔夜の手首を掴むと戸惑ったように視線をそらす。




不思議に思って小首をかしげた彼女だったが、ふとルイが視界に入り思わず息をつめた。




(な、に……?)





彼の表情は恐ろしいほどに冷たかった。




常にたたえられていた笑みは消え、どこまでも冷たい瞳が朔夜を見据える。




その瞳がたたえる感情は朔夜には分からなかったが、決していいものではないだろう。




目の前のノアールを見ず、不自然な場所を見つめて固まっていた彼女だったがルイの表情がふっと和らいだことで我に返る。




ばくばくと、心臓が不自然に鼓動を刻む。




額にじっとりと滲んだ冷や汗をさりげなく拭い、出来るだけ何事もなかったようにノアールに視線を移した瞬間、朔夜は身体を強張らせた。




なぜならば、彼はとても鋭い目つきで朔夜を睨んでいたからだ。




その瞳がたたえる明らかな怒りと拒絶に、恐怖と共に疑問を抱いた彼女だったがすぐに彼の視線が自分ではなく、自分の左肩越しに投げかけられていることに気づき目を見開いた。




彼女の左背後にいるのはルイだからである。





(この人たち、仲間……なんだよね?)




それにしては、ノアールがルイに投げかける視線があまりにも激しすぎる気がしなくもないが。




ちらりと背後に視線をやれば、今まで氷のような視線を寄こしていた彼はすっかり元通りの親しみやすい笑みを浮かべて飄々とノアールの視線を受け流している。




そのことに少し感心しつつ、朔夜はため息をつきたくなった。




よく分からないけれど、彼らのことにはあまり首を突っ込まないほうが良いだろう。








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