闇夜に真紅の薔薇の咲く
ノアールは笑顔だけを向けて、少し疲れたようにため息をついた。




それから、ルイと柚梨は他愛もない話しをして、ノアールは女子たちの挨拶の律義に答えながら、朔夜は女子たちの視線と分かりやすい嫌味を少しでも言われないよう勝手にノアールを盾にして学校への道を歩み、やっとのことで昇降口にたどりつく。




すっかり仲良くなったルイと柚梨を尻目に、朔夜とノアールは疲れ切ったようにため息をついた。






「……疲れた」

「……俺も」






何とはなしに呟いた言葉に同意が返ってきたことに驚き目を見開くと、ノアールは僅かに淡く笑む。





あまりの優しげな表情に目を奪われ思わずノアールを凝視すると、彼はすぐにその笑みを消し無表情に戻った。





そのことを少し残念だな、と思いつつ上履きに履き替えると丁度一緒に登校してきたであろう麗と陽雫と会い笑みを浮かべて手を振る。






「おはよう。麗、陽雫」

「おはよー。柚ちゃん。朔夜」

「おはよう! 瑠衣くん、伊織くん」

「…………」






どうやら麗の眼中に自分は入っていないようだ。




今にも飛びつかんばかりの勢いで二人に挨拶をした麗の声はいつもより心なしか高く、甘い。




色んな声が出るもんだな、と軽く尊敬の念を抱いた朔夜とは対照的に表情を引きつらせた陽雫は「あんたね……」とため息交じりにいうも、麗にはその声は届いていないのか彼女はこちらに一瞥もくれない。





完璧に呆れてしまった陽雫に苦笑を向けると、彼女もまた苦笑を零した。





甘い声に反応したルイはいつも通りに、ノアールは若干引き気味に麗に挨拶を交わす。




その光景をいつの間にか隣に来ていた柚梨と共に静観していると、不意に陽雫が思い出したように手を叩いた。





「そう言えば、知ってる? またうちのクラスに転校生が来るらしいよ?」

「え? また?」





高校に入ってまだ数ヶ月。




時期外れの転校生に訝しげに眉根を寄せると、陽雫はこくりと頷く。











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