闇夜に真紅の薔薇の咲く
東の空が藍色に染まり始めた頃、やっとのことで掃除を終えた朔夜たちは帰路につく。
柚梨たちとはいつも通り途中別れ、今はルイとノアール、そして斗也と朔夜の四人だけ。
驚いたことに、どうやら彼の家は朔夜の家の近くらしい。
すっかり打ち解けた斗也と会話をしながらふと通学カバンに目をやった時、いつも付いている物がないことに気が付き無意識に何故か右隣にいたノアールを見上げる。
「ねぇ」
「どうした?」
「私の鞄についてたストラップ、知らない?」
「ストラップ?」
ノアールは眉根を寄せて、考え込むように目を細める。
朔夜の鞄には茶色のクマの小さなぬいぐるみがつけてあった。
それは、夜空から入学祝だともらったもので入学して以来ずっとつけていたのだが……。
とうとう落としてしまったようだ。
元来た道を戻るにも、途中で日が暮れて真っ暗になってしまうだろう。
そうなれば、見つかるものも見つからない。
難しい顔をして顔を突き合わせている朔夜とノアールの元へ、恐らく先ほどの会話をきいていたのだろうルイが小首をかしげた。
「あの、クマのヤツだよね? 落としちゃったの?」
「うん……」
眉を下げて、明らかに落ち込んでいるだろう朔夜の声にははきが感じられない。
たかがストラップを落としたぐらいでここまで落ち込むか、と顔を見合わせたノアールとルイのことなど知らず彼女は深いため息をつく。
実はと言うとアレは朔夜からしてみれば、かなり大事なものだった。
何せ、兄である夜空が初めて自分にくれたものなのだから……。
夜空は小さな時から意地が悪く、“優しい兄”とはかけ離れた存在だった。
昔、いじめられっ子だった朔夜がクラスメートの男子にいじめられているのを見つけても、助けることはおろか逆にいじめる側に回ってしまうような子で、今まで物なんてくれたことなどなかったのだが、どういう風の吹きまわしなのか。
合格発表の日、合格したと嬉々として家族達に伝えた朔夜に夜空は柄にもなく恥ずかしがりながらこれを付きだしてきたのだ。
「おめでとう」と恥ずかしそうに視線をそらして言いながら。
その時のことは、今でもしっかり覚えている。何せあの時から朔夜の中で夜空は、“優しいお兄ちゃん”となったからだ。
今でも少し意地悪を言うけれど、それでも彼女が困っている時はさり気なく助けてくれる。
柚梨たちとはいつも通り途中別れ、今はルイとノアール、そして斗也と朔夜の四人だけ。
驚いたことに、どうやら彼の家は朔夜の家の近くらしい。
すっかり打ち解けた斗也と会話をしながらふと通学カバンに目をやった時、いつも付いている物がないことに気が付き無意識に何故か右隣にいたノアールを見上げる。
「ねぇ」
「どうした?」
「私の鞄についてたストラップ、知らない?」
「ストラップ?」
ノアールは眉根を寄せて、考え込むように目を細める。
朔夜の鞄には茶色のクマの小さなぬいぐるみがつけてあった。
それは、夜空から入学祝だともらったもので入学して以来ずっとつけていたのだが……。
とうとう落としてしまったようだ。
元来た道を戻るにも、途中で日が暮れて真っ暗になってしまうだろう。
そうなれば、見つかるものも見つからない。
難しい顔をして顔を突き合わせている朔夜とノアールの元へ、恐らく先ほどの会話をきいていたのだろうルイが小首をかしげた。
「あの、クマのヤツだよね? 落としちゃったの?」
「うん……」
眉を下げて、明らかに落ち込んでいるだろう朔夜の声にははきが感じられない。
たかがストラップを落としたぐらいでここまで落ち込むか、と顔を見合わせたノアールとルイのことなど知らず彼女は深いため息をつく。
実はと言うとアレは朔夜からしてみれば、かなり大事なものだった。
何せ、兄である夜空が初めて自分にくれたものなのだから……。
夜空は小さな時から意地が悪く、“優しい兄”とはかけ離れた存在だった。
昔、いじめられっ子だった朔夜がクラスメートの男子にいじめられているのを見つけても、助けることはおろか逆にいじめる側に回ってしまうような子で、今まで物なんてくれたことなどなかったのだが、どういう風の吹きまわしなのか。
合格発表の日、合格したと嬉々として家族達に伝えた朔夜に夜空は柄にもなく恥ずかしがりながらこれを付きだしてきたのだ。
「おめでとう」と恥ずかしそうに視線をそらして言いながら。
その時のことは、今でもしっかり覚えている。何せあの時から朔夜の中で夜空は、“優しいお兄ちゃん”となったからだ。
今でも少し意地悪を言うけれど、それでも彼女が困っている時はさり気なく助けてくれる。