闇夜に真紅の薔薇の咲く
ふと、夜空の顔が脳裏をよぎった。


ストラップを無くしたと知れば、彼はどんな表情をするだろう。


怒るだろうか。それとも、悲しそうな顔をするのだろうか。


仕方がないと言って、笑うのだろうか。


十五年間ずっと一緒に育ってきたのに、兄がどんな表情をするのか分からない。


朔夜はため息をつく。いつもなら仕方がないと思うのに、どうしてもそう思うことができない。


大事だ大事だと思っていたが、まさかこんなに大事だったとは。


自分の中のぬいぐるみの存在の大きさに驚きながら、朔夜は何事かを話し合っているルイとノアールを見やる。


彼らは何やらひそひそと小声で話し、朔夜が見ていることに気づいたのだろう。


こちらをちらっと一瞥して、すぐに話しを切り上げた。


何となく気になった朔夜は瞬きをして首をかしげる。




「何話してたの?」

「いや、何でもないよ。ねぇ、ノ……伊織?」

「あぁ」




訝しげに眉を寄せながら、朔夜は静かに歩きだしたノアールの後に続く。



どんなに問い詰めたところで、どうせ彼らは教えてくれないだろう。



諦めて、不意に朔夜は目を見開く。



あれほどに恐れていたのに――関わりたくないと思っていたのに、こんなにも自然に彼らと話しているなんて。



無意識にしていたそれに驚いて思わず立ち止まると、前方に斗也がいないことに気づいてぐるりとあたりを見回す。



(あれ? 先に帰っちゃったのかな?)



彼女の隣にも、後方にも、斗也の姿は見当たらない。



そう言えば、朔夜がルイたちと話しているときから彼の声は聞いていない。



いつの間に帰ったのだろう、と首をひねり朔夜はかなり遠くに見える彼らに小走りで追いかけた。










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