闇夜に真紅の薔薇の咲く
†第3章†
今日は一段と蒸し暑い。


空を覆う灰色の雲は一向に切れる様子はなく、今にも雨が降り出しそうな空を見上げながら朔夜はぱたぱたと下敷きで風を送る。




「あっつ……」



じっとりと纏わりついてくるような暑さに、思わず顔をしかめた。


この時期、湿気が多いのは仕方のないことなのだろう。


けれど……。




「もうちょっとどうにかならないのかな……」




窓を開けていても風一つ入って来ない。


下敷きで扇いでいても、くるのは生ぬるい風だけ。


クーラーをかけてほしいと切実に願ってしまうのは、仕方のないことだろう。


天気同様、どんよりとした気分が心に重くのしかかりいつも以上に授業に身が入らない。


ぼんやりと灰色の空を見上げながら、機械的に手だけ動かして生ぬるい風を受けていると不意に、バコっと言う鈍い音と共に地味な痛みがじわじわと頭に広がっていく。


頭を押さえながら背後を振り向くと、そこには教科書片手に呆れかえったような表情をしている麻生。




「花片。暑いのは分かるがもっと授業に集中しろ。……お前だけだぞ? 昨日の小テストであんな点数取ったのは」

「……」




痛いところをついてくる。


昨日行われたニ十点満点の軽いテストで、実は朔夜は十点も取れていなかった。


担任である麻生には何か言いたげな視線を向けられ、偶然見られてしまったルイにはもっと頑張れ、とでも言うような表情をされ、ノアールにいたっては確実に答案を見たであろうに、見ていないと言うように視線をそらされた。


ルイや麻生のものもかなり突き刺さったが、何も示さないノアールの行動は心をえぐるものがある。


苦虫を十匹ほどかみつぶした顔で、彼女は麻生を見上げた。




「……先生、酷い」

「何が酷いだ。あの小テスお前以外のヤツみんな満点だったんだぞ?」

「……」

「努力の差だ。ま、次頑張れ」




丸めた教科書でぽんと軽く頭を叩かれ、朔夜は渋面を作る。








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