苺な彼女と、エスカルゴな彼。
「…あ、トモキくん」
扉の開く音に気づかないはずがない。
イチルちゃんは僕を視界に入れると、何らいつもと変わりない笑顔を見せた。
それに曖昧に笑うことでしか応えてやれない自分がもどかしい。
「並木サン、じゃあ俺もう行くから」
そこで初めて声を上げたのは、さっきまでイチルちゃんと笑い合ってたそいつ。
「うん。ありがとうね、日野(ひの)くん」
イチルちゃんはそいつのことをそう呼んで、僕の横を通りすぎていくまで手を振った。
僕の横を通りすぎた彼は、僕より10センチほど背が高くて、にわかに運動が出来る僕と違って完璧なスポーツマン体型で、黒くてこざっぱりと切り揃えられた髪は彼から香ってくる爽やかなマリン系の香水の匂いにぴったりだった。
「彼、うりトラマンに似てるよね」
いつの間にか帰り支度を済ませたイチルちゃんは、僕の隣にきていて、そんなことを言った。