苺な彼女と、エスカルゴな彼。
―side ICHIRU―
珍しくトモキくんが教室に来なかった。
でも、学校に来ているのはわかる。
クスクス聞こえるのは、女の子たちの囁き声。
『瀬名くん、教室にいたよ』
『マジ?やっぱり並木サン捨てられたとか?』
『えー、じゃあ私狙えるかなあ?』
『ずるーい。私だって…』
『ヒトミもアキちゃんも可愛いから、瀬名くん考えてくれるよ!』
今日は、カエデが休みだから気を逸らす楽しい会話をする相手もいない。
やだ。
やめて。
お願いだから。
トモキくんをわたしから、奪わないで。
わたしには、トモキくんしかいないのに、
「………」
大きく息をつく。
ダメだって、わかってる。
トモキくんは物じゃない。
でも、止められない。
どんどん、自分が真っ黒に染まっていく。
こんなわたしじゃ、トモキくんに嫌われてしまう。
見捨てないで。
トモキくん、助けて。
ガタッ
「並木さん、どこへ行くの!ホームルーム始まるわよっ」