夜がくるよ【短編】
「夜はこないよ。」
だいじょうぶ、こわくない。
そう続けると 彼女はやっと顔をあげた。
少しむくんで、少し赤く染まった目元は
発育途上独特の雰囲気があった。
まだ未熟なそれに笑う。
「夜は、こないよ。」
繰り返してやると
彼女は僕から夕日に目を移した。
じ、と。
どんなに長い間見つめても
その夕日は落ちることを知らない。
オレンジ色に染まった街を見下ろして
彼女は涙をぬぐった。
「これじゃあナマゴロシね」
「殺し?」
「……いつくるかわからない夜に、おびえて過ごせっていうの…?」
僕はニイ、と顔をゆがめた。
「君が言ったんだろう。
『夜は嫌だ』って。
ダイジョウブ、夜ハ来ナイヨ。」
「大人の言うことなんて信用できないわ。」
僕は笑った。
久しぶりに、腹の底から。
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過渡期を迎えた哀れな子だ。
この時期が過ぎたその時に、
ゼツボウでやられないように
今のうちに絶望を知っておけばいい。
【夕日と、それで描かれたゼツボウ。】