夢現
枕屋
最近、流行っているというのでその店に行ってみた。
流行っているという割には、それ程広い店ではなかった。
むしろ狭くてごちゃごちゃした店だ。
枕ばかりが、山のように積み上げられている。
高級とされる枕は、何十万円もするようだが見た感じではその良さがよく分からない。
店内を見ていると、店主と思われる男が近づいてきた。
気味が悪いくらいに愛想の良い顔。
「どんな枕をお探しですか」
そう聞かれて、「柔らかすぎないである程度高さのあるのが好きだね」と答えると店主は少し驚いた顔をした。
「お客様は冗談がお好きなようだ」
枕を売る店で、枕の好みを聞かれ、枕の好みを伝えて冗談と言われるとは思わなかった。
「いや、本気ですけど」
僕が答えると、店主は妙な顔つきをした。
「何も知らないでいらっしゃったのですか?」
枕を売る店だとは聞いていたけれど、それ以上に何を知ってから来るべきなのだろうか。
店主は僕の困惑を見てとったのか、説明を始めた。
「当店の枕は、お客様にお好みの夢を見て頂く事ができます」
そう言ってがさごそといくつか取り出した。
「例えばこれは気持ちの良い高原を散歩する夢が見られます」
ただの緑色の枕にしか見えない。
緑だから高原という事だろうか。
「色は、この緑の他に青とピンクの3色からお選び頂けますよ」
僕の考えを見透かしたように店主が説明を付け加えた。
また、別の枕を見せる。
「こちらは仕事でいい結果を出した夢を見れます。良いイメージを持って仕事をすれば、実際に良い結果に結び付きやすいので、お仕事をされている方に人気の商品です」
もっともらしい売り文句をつける。
僕が特に感想を言わないと、また別の枕を取り出した。
「お客様には意中の方はいらっしゃいますか?この枕は、想い人と幸せな時間を過ごす夢を見られる枕ですよ」
枕によって、自分が見たい夢を選べるという事か。
最近の商売は色々とあるものだな。
だんだん、関心してきた。
「じゃあ、あれはどんな夢だい?」
さっき見かけた、何十万もする枕を指差した。
「あれは特殊加工がしてありまして、夢の中で亡くなった方と会話をする事ができる枕ですよ」
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
僕が興味を持った事に気付いたのだろう。
店主は先ほどよりも全力の笑顔で言った。
「確かに高額ですが、既に亡くなった方にもう一度会って聞きたい事などはありませんか?そういった願いも叶う枕ですよ」
興味がなかった訳ではないが、あまりにも高額だったので考えてまた来ると伝えて店を後にした。
それから数日間、僕の頭の中は枕の事だけになった。
もう一度会える。
もう一度話ができる。
ある朝目が覚めた時、僕は決めた。
今日仕事帰りにあの枕を買おう。
そう思いながら顔を洗い、珈琲を入れて煙草に火をつけた。
TVのスイッチを入れる。
朝の情報番組。
詐欺の話題が出ている。
「好きな夢が見れると枕を売り、いい夢から目覚める事ができなくなった人に悪夢を見せる高額な枕を売りつけていたとされる枕屋店主が本日検挙されました」
頭からジャケットをかぶっていたが、あの体格はおそらくあの店の店主だ。
TVのスイッチを切り、スーツを着て玄関のドアを閉める。
ガチャリ。
鍵の閉まる音がいつもよりも大きく聞こえる。
それでも僕はあの枕が欲しいと思った。
流行っているという割には、それ程広い店ではなかった。
むしろ狭くてごちゃごちゃした店だ。
枕ばかりが、山のように積み上げられている。
高級とされる枕は、何十万円もするようだが見た感じではその良さがよく分からない。
店内を見ていると、店主と思われる男が近づいてきた。
気味が悪いくらいに愛想の良い顔。
「どんな枕をお探しですか」
そう聞かれて、「柔らかすぎないである程度高さのあるのが好きだね」と答えると店主は少し驚いた顔をした。
「お客様は冗談がお好きなようだ」
枕を売る店で、枕の好みを聞かれ、枕の好みを伝えて冗談と言われるとは思わなかった。
「いや、本気ですけど」
僕が答えると、店主は妙な顔つきをした。
「何も知らないでいらっしゃったのですか?」
枕を売る店だとは聞いていたけれど、それ以上に何を知ってから来るべきなのだろうか。
店主は僕の困惑を見てとったのか、説明を始めた。
「当店の枕は、お客様にお好みの夢を見て頂く事ができます」
そう言ってがさごそといくつか取り出した。
「例えばこれは気持ちの良い高原を散歩する夢が見られます」
ただの緑色の枕にしか見えない。
緑だから高原という事だろうか。
「色は、この緑の他に青とピンクの3色からお選び頂けますよ」
僕の考えを見透かしたように店主が説明を付け加えた。
また、別の枕を見せる。
「こちらは仕事でいい結果を出した夢を見れます。良いイメージを持って仕事をすれば、実際に良い結果に結び付きやすいので、お仕事をされている方に人気の商品です」
もっともらしい売り文句をつける。
僕が特に感想を言わないと、また別の枕を取り出した。
「お客様には意中の方はいらっしゃいますか?この枕は、想い人と幸せな時間を過ごす夢を見られる枕ですよ」
枕によって、自分が見たい夢を選べるという事か。
最近の商売は色々とあるものだな。
だんだん、関心してきた。
「じゃあ、あれはどんな夢だい?」
さっき見かけた、何十万もする枕を指差した。
「あれは特殊加工がしてありまして、夢の中で亡くなった方と会話をする事ができる枕ですよ」
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
僕が興味を持った事に気付いたのだろう。
店主は先ほどよりも全力の笑顔で言った。
「確かに高額ですが、既に亡くなった方にもう一度会って聞きたい事などはありませんか?そういった願いも叶う枕ですよ」
興味がなかった訳ではないが、あまりにも高額だったので考えてまた来ると伝えて店を後にした。
それから数日間、僕の頭の中は枕の事だけになった。
もう一度会える。
もう一度話ができる。
ある朝目が覚めた時、僕は決めた。
今日仕事帰りにあの枕を買おう。
そう思いながら顔を洗い、珈琲を入れて煙草に火をつけた。
TVのスイッチを入れる。
朝の情報番組。
詐欺の話題が出ている。
「好きな夢が見れると枕を売り、いい夢から目覚める事ができなくなった人に悪夢を見せる高額な枕を売りつけていたとされる枕屋店主が本日検挙されました」
頭からジャケットをかぶっていたが、あの体格はおそらくあの店の店主だ。
TVのスイッチを切り、スーツを着て玄関のドアを閉める。
ガチャリ。
鍵の閉まる音がいつもよりも大きく聞こえる。
それでも僕はあの枕が欲しいと思った。