夢現
地下鉄
揺れている。
明るい場所から、暗い場所へ。
自分は動いていないのに連れて行かれる。

目の前を見る。
真っ暗な四角い枠に、自分が映る。
暗い顔。
目の前の自分の後ろに、知らない人が立っている。

目が、合った気がする。
その人の口は閉じられているのに、責められている気分になる。

何をしているんだろう。
その先にあるのはいつも通りの結果。
何も変わらない。

『何かしたの』
目の前の自分の後ろの人がそう言っている気がする。
『だって仕方がないじゃないか』
頭の中で、言い訳にもならない言い訳をする。

今、進んでいるのは自分の意思じゃない。
今、動いているのは、自分じゃない。
今、自分の気持ちで降りる事すらできない。

いっそ、このままずっと乗っていようか。
ふと、そんな思いがよぎる。

何だか具合が悪くなり、目を閉じる。

聞き慣れた駅の名前が響き、入り口が開く。
後ろから、人の波に押されて降りる。

降りてしまったので、改札に向かって歩く。
さっき目の前の自分の後ろにいた顔が、後ろから自分を追い越して歩いて行く。
『乗ると決めたのは、あなたの意思じゃない』
そう言われた気がした。

『すみません』
ふいに声をかけられ振り向く。
『落としましたよ』
きれいな女性がハンカチを差し出す。
お礼を言って受け取る。
女性はにっこり笑った。

もう一度、改札を見る。
悪くない。
背筋を伸ばして改札を通った。
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